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官能小説 ただいま、恋心
ただいま、恋心
その日、桃香はなんとなく、気分を変えたいと思っていた。結婚して七年。夫の大翔とは、家族という安らぎの中で、穏やかな日々を過ごしている。それは、かけがえのない幸せな時間だ。けれど、どこか日常に埋もれて、二人で歩み始めた頃の胸の高鳴りを、少しだけ忘れかけているような気がしていた。
休日のお昼前、リビングの窓から柔らかな日差しが差し込む。大翔はソファで分厚い専門書を読んでいて、時折、真剣な表情でページをめくる音が聞こえてくる。そんな彼の横顔を見つめながら、桃香はこっそりと自分の部屋へと向かった。
ドレッサーの引き出しを開けると、友人が誕生日にくれたプレゼントが目に入る。それは、優しいピーチの香りがする香水とヘアオイルだった。箱を開け、ひと吹きすると、ふわりと甘く爽やかな香りが漂ってくる。
「わぁ、すごくいい香り……」
まるで、初夏の風に揺れる桃の花のような、甘酸っぱく、そして懐かしい香り。桃香はそっと、ヘアオイルも手に取ってみる。髪に馴染ませた途端、ピーチの香りが全身を包み込む。
「なんだか、私まで甘くなっちゃいそう」
そう呟いて、桃香は思わずくすっと笑った。大翔には内緒にして、この香りを身につけてみよう。ちょっとした秘密が、桃香の胸をくすぐった。
夕食の準備を始め、リビングで本を読んでいた大翔が、ふと顔を上げた。
「ん?なんか、甘い匂いがするな」
桃香は、包丁を動かす手を止めずに、心の中で小さく微笑んだ。
「何か焼いてるのか?」
大翔の声がキッチンに届く。桃香は振り返らずに、茶目っ気たっぷりに答えた。
「ふふ、どうかな?当ててみて」
大翔はゆっくりと立ち上がり、スリッパを擦る音を立てながらキッチンへとやってきた。桃香の背後に立つと、その大きな身体が暖かく感じられる。大翔はそっと鼻を近づけ、桃香の肩越しに香りを確かめるように深く息を吸い込んだ。
「んー……なんだろう。すごく懐かしいような、でも新しいような……」
大翔の吐息が首筋にかかり、桃香の心臓がトクンと鳴った。日常に溶け込んでいたはずの心臓が、急に存在を主張し始める。こんなに近くで彼を感じるのは、久しぶりかもしれない。
「ヒントはね……」
桃香は、彼の腕の中に閉じ込められるように、小さく囁いた。
「大翔が昔、大好きだって言ってくれた香りだよ」
その言葉に、大翔はハッとしたように目を見開いた。そして、腕を桃香の腰に回し、優しく、でもしっかりと抱きしめた。ピーチの香りが、二人の間を包み込む。
「これ……桃の香りか?」
大翔の声が、少し震えているように聞こえた。
「なんか、昔桃香と初めてデートした時のこと、思い出すな」
桃香は驚いて、振り返った。大翔の顔を、まっすぐに見つめる。
「覚えてたの……?」
「もちろん。覚えてないわけないだろ」
大翔は優しい眼差しで桃香を見つめた。
「あの時も、桃香からこんな甘い香りがしてさ。白いワンピースを着て、嬉しそうに笑ってた。俺、ドキドキしすぎて、まともに話せなかったんだ」
大翔の言葉に、桃香の頬が熱くなる。彼の記憶の中に、自分との甘い思い出が鮮やかに残っていたことに、胸がキュンとなった。忘れかけていた、あの頃の自分が、ピーチの香りと共に、再び目の前に現れたような気がした。
よみがえるトキメキ
夕食後、二人はリビングのソファで寄り添って映画を観ていた。大翔は、無意識のように桃香の髪をそっと撫でる。指先が、香りの元を探すように優しく動く。
「やっぱり、いい匂い。今日の桃香、なんか特別だな」
大翔は桃香の肩に顎を乗せ、囁くように言った。
「もう、からかわないでよ」
桃香は照れ隠しに大翔の腕を軽く叩いた。心の中では、嬉しさが波のように押し寄せてくる。
大翔は桃香の手を取り、自分の頬に当てる。
「からかってない。本当にそう思う。なんか、桃香と出会った頃みたいだ」
彼の温かな頬が、桃香の指先に伝わる。その真剣な瞳に見つめられ、桃香の心臓は再び高鳴り始めた。
「大翔も、ずるいよ」
桃香は精一杯の気持ちを込めてそう言うと、大翔はくしゃっと笑った。
「そうか?嬉しいな」
大翔は、桃香の指先にそっとキスをした。その優しい感触に、桃香の全身に甘い電流が走る。そのキスは、日々の生活の中ではめったにない、二人の関係を再確認するような特別な行為だった。桃香は、この瞬間のために、無意識にこの香りを選んだのかもしれない、とさえ思った。

「あのさ、桃香」
大翔は体を少し離し、改めて桃香の目を見つめた。
「ん?」
「明日、どこか行かないか?二人で、ゆっくりできるところ」
急な提案に、桃香は少し戸惑った。
「急にどうしたの?」
桃香が問いかけると、大翔は少し照れたように視線を逸らした。
「いや、なんとなく。また、桃香とデートしたいなって思ったんだ」
その言葉に、桃香の胸は幸福感でいっぱいになった。結婚して七年。家族としての安らぎも大切だけど、時々こうして、お互いを「男」と「女」として意識し、トキメキを感じられる瞬間があることの尊さを、桃香は改めて感じていた。
「うん、行こう!どこでも、大翔と一緒なら」
桃香は微笑みながら、大翔の肩にそっと頭を乗せた。ピーチの甘い香りが、二人の心をそっと繋ぎ直し、忘れかけていたロマンチックな予感を運んでくる。二人の間に流れる時間は、かつてないほど甘く、そして温かかった。
再び始まる物語
翌朝、桃香は再び、ピーチの香りを身にまとった。昨夜大翔と交わした約束が、桃香の心を弾ませる。
「桃香、用意できたか?」
大翔がリビングから声をかける。いつもより少しだけ高揚したその声に、桃香は嬉しくなった。
「うん、もうすぐ!」
準備を終えてリビングに向かうと、大翔が玄関で待っていた。車に乗り込むと、大翔は桃香のために、少しだけシートを倒してくれる。
「どこに行くの?」
桃香が尋ねると、大翔はハンドルを握りながら、楽しそうに笑った。
「秘密。でも、桃香が喜ぶところだよ」
大翔の言葉に、桃香の胸は期待で膨らんでいく。車内には、懐かしいメロディーが流れ、二人を穏やかに包み込む。窓から見える景色は、いつもと変わらないはずなのに、今日はすべてが特別に見えた。
目的地は、少し離れた海辺の街だった。二人が初めてデートをした水族館の近くにある、小さなカフェ。二人にとって、思い出の場所だった。
「わぁ……」
桃香は思わず声を上げた。数年ぶりに訪れたカフェは、少しだけ内装が変わっていたが、穏やかな空気は変わらない。
大翔は何も言わず、桃香の手を握ってくれた。その手の温かさが、桃香の心にじんわりと染み渡る。
カフェでコーヒーを飲みながら、二人はお互いの仕事の話や、最近あった面白い出来事を話した。日常の些細な会話なのに、なぜかとても新鮮に感じられる。
「そういえば、あの水族館、まだあるのかな?」
桃香が尋ねると、大翔は少し照れたように言った。
「さっき、車で通った。まだあったよ。帰りに寄ってみるか?」
「うん!」
桃香は満面の笑みで頷いた。
水族館の入り口に立ったとき、桃香は、あの頃の大翔の姿を思い出していた。少し緊張した面持ちで、でも、精一杯楽しませようとしてくれていた、あの頃の彼。そして、あの頃の自分。
水槽の中を優雅に泳ぐ魚たちを眺めながら、大翔は桃香の腰にそっと手を回した。
「なんか、不思議だな。七年も一緒にいるのに、またこうして桃香とデートしてる」
大翔の言葉に、桃香は嬉しそうに寄り添う。
「そうだね。でも、すごく嬉しい」
桃香がそう言うと、大翔は桃香の肩にそっと頭を乗せた。
「昔は、ただただドキドキして、話すことばかり考えてたけど、今はこうして、一緒にいるだけで幸せだ」
彼の言葉は、桃香の心に深く響いた。それは、トキメキとは違う、もっと深く、優しい感情だった。
帰り道、車窓から夕日が差し込む。車内には、夕日に染まる海と、二人の静かな時間が流れていた。
「今日は、本当にありがとう」
桃香が言うと、大翔は桃香の手を握り直し、そっとキスを落とした。
「こちらこそ。今日、桃香のあの香りに、背中を押してもらった気がする」
大翔は少し照れながら言った。
「最近、仕事が忙しくて、つい桃香に甘えっぱなしだったなと思って。桃香がいてくれることが当たり前になってた」
桃香は、大翔の素直な気持ちに胸が熱くなった。お互いの存在が当たり前になっていたのは、きっと二人ともだった。
「私もだよ。でも、こうしてまた、大翔の恋人になれたみたいで、すごく幸せ」
桃香の言葉に、大翔は再び笑みを浮かべた。
自宅に帰り、玄関を開けると、懐かしい香りがふわりと漂う。
「ただいま」
「おかえり」
二人で声をかけ合う。それは、いつもと変わらない、日常の挨拶。けれど、その言葉には、今まで以上の温かさと、深い愛情が込められているように感じられた。
桃香は、ピーチの香りに導かれて、再び大翔と恋に落ちた。そして、この新しい恋は、これから始まる長い人生の、新しい物語の始まりだった。
END
あらすじ
結婚して七年が経ち、恋人気分を忘れてかけていた桃香と大翔。
そんなふたりに甘酸っぱい記憶を呼び起こさせたものとは…