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官能小説 【前編】初恋、初kiss、初×××。を君に捧ぐ。
この作品について
この作品は、小説サイト「ムーンライトノベルズ」と合同で開催した
「妄想小説コンテスト」の優秀賞作品です。
片思い
「今度、キスシーン撮るんだって?」
そういえば、と無邪気に発せられた声に固まった。
私と一緒にテーブルを囲む五人組は、全員個性溢れる見目良い容姿をしている。
彼らは、今日本で一番人気のあるアイドルグループのメンバー。
そして、その中の一人。知的さを滲み出しながらも整った綺麗な顔をした、結城 紫都伽(ゆうきしずか)が、今、他のメンバーに声をかけられたその人であり、私の幼馴染みでもある人物だった。
「…あ〜、うん」
「紫都伽のラブシーンて初めてじゃないか?」
「今までラブストーリーもののドラマに出たことなかったもんね」
「どうなの、そこんとこ」
「お色気担当に魅せ方とか聞いてみれば?」
気乗りしていない紫都伽に向かい、他のメンバーたちは楽しそうに盛り上がる。
「ていうか、紫都伽くんて、キス自体の経験あんの?」
まさか、初めてなんじゃ?
優等生キャラである紫都伽にそんな爆弾発言をしたのは、無邪気さを売りにしているメンバーの一人。
それを、私は黙々と目の前の食事を味わうことで透明人間になりきった。
仮にも乙女のいる前でそんな会話をしないで欲しい。
というか。
「…まぁ、ファーストキスじゃないだけまだマシかな」
え…!?
紫都伽のその発言に、一瞬だけドキリと胸が跳ね上がる。
でも、違う…、よね?
私のファーストキスの相手。
それは、本当に大昔。それこそ幼稚園児の頃の話だから、フライングということでノーカウントにしてしまっても許されるレベルの笑い話でいいと思う。
一度だけ、私は紫都伽とキスをしたことがある。
小さな子供同士の「結婚の約束」。完全におままごとの延長だ。
「え!マジで!?いついつ!?相手は誰だよ…!?」
「いつの間に…!?」
「ていうかお前ら、芹玲奈(せれな)ちゃんの前でその会話やめれ」
さらに盛り上りをみせるメンバーの会話に、元々言葉少ななリーダーが呆れたようにその話を中断した。
それにメンバーは各々「あ…っ」と今気づいたとばかりに私の方へ視線を投げ、それから気まずそうに食事へと戻っていった。
……うん。今、完全に私の存在忘れてたよね……?
「お前ら、明日もリハーサルあるんだから飲み過ぎるなよー?」
ここはそれなりに広い個室だけれど、少し離れたテーブルで同じく夕食を取っていたマネージャーたちの中の一人が、「二日酔いはダメだぞー」と呑気に声をかけてくる。
それに「はーい」と揃っていい子のお返事を返すメンバーに、マネージャーたちは「それならばよろしい」とでもいうように頷いていた。
そう。明後日に、彼らは大きな舞台でのコンサートを控えている。
今日はその小さな前祝いを兼ねてメンバーとマネージャーたちとでささやかな宴会を開いていたのだ。
けれど、そんな特別な席に、なぜ私などが同席できているかというと。
実は私ーー水城 芹玲奈(みずきせれな)は、12歳まで子役をしていた。
紫都伽がスカウトされて業界に入ったのは15歳の時だから、本当に入れ替わり。
そしてその頃から彼らの社長さんとも縁があった私は、紫都伽の幼馴染みという特権もあって、時々こうして飲みの席に誘って貰える。
彼らが冗談で「父」とも仰ぐ社長さんは本当に豪快で面白い人だ。
なにせ、紫都伽の公式プロフィールの備考欄に「婚約者あり」の文字を載せたのはその社長さんに他ならない。
私と紫都伽が幼馴染みであることを知り、幼い日に交わした例のエピソードを聞いた時、社長が面白がって紫都伽のプロフィール欄に追加したという。
元々紫都伽は、'いいところのお坊ちゃん'風をウリにしているところがあるから、「親に勝手に決められた婚約者から奪い取ってしまう恋」的なときめきをファンに与えたいという狙いだったらしいのだが。
その時は全く意味がわからなかったけれど、実際にそれで大成功したのだから、社長の売り込みはさすがだと感心するしかない。
……ただ、そろそろ三十路にも手が届くかという今となっては、その公式プロフィールは訂正した方がいいとは思うのだけれど。
「そういえば芹玲奈、最近仕事の方はどうなの?」

明日のことを考えてか、アルコールからお茶へと変わったグラスを手に聞いてくる紫都伽に、私は苦笑いを返す。
「中途採用で来た男の子がいてね。すっごく優秀で助かってる」
今年で入社から三年目。新人の頃とは違い、少しずつ仕事も任されるようになって嬉しい反面、失敗や責任で愚痴を洩らしていたのはしばらく前に会った時だ。
それでも、一つ年下のその男の子がかなり頼りになるタイプで、最近、随分肩の荷を減らして貰っていたりする。
「え、なに?助けられてときめいちゃったり?」
「……っ」
一夜のお遊びをしたいアイドルNo.1、の、お色気担当メンバーからのからかいに、思わずむせ返りそうになってしまう。
「……え…、マジで…?」
「…ぃえ…っ?本当にちょっとよっ?ちょっとだけ…っ」
失敗して、慰められて、フォローして貰って。
これで心動かされなければ嘘だと思う。
ずっと、紫都伽に片思いしてた。
だれど、これもいい機会かな、なんて思ってる。
アイドルである彼に今すぐの結婚は難しい。
私は結婚もしたいし、子供も欲しい。
もし子供を望むなら、やっぱり30歳までには結婚したいと思ってしまうから。
ーーそんなには、待てない。
いつか振り向いてくれるかな、なんて期待していたのは20代前半までだ。
最近は、ほぼ諦めている。
だからこれを機に気持ちを切り替えて、新しい恋を探そうかな、と思えたのはその彼のおかげだ。
まだ恋にまでは至っていない小さなトキメキではあるけれど、その芽が少しずつ大きく育ってくれたらいいな、なんて思ってる。
3歳で紫都伽に出逢ってもう25年。
ずっと、紫都伽だけだった。
でも、もう、他を見るべきだよね?
長い片想いはやっぱりちょっと辛い。
逃げ出しちゃっても…、許されるよね?
誰に言うでもなく心の中で呟いて、私はカクテルを傾けた。
甘いお酒のはずなのに、なんだか少しだけ苦い気がするのは気のせいだろうか。
初恋への決別も込めて、その場にいるメンバーの顔を悪戯っぽくぐるりと見回した。
「もし結婚式を挙げるとしたら、一曲なにか歌ってくれたりする?」
五人で、お祝いソング。
そう笑うと、なぜかメンバー全員の間へと微妙な空気が流れた。
人目を避けて
「…送るよ」
「紫都伽ってば心配性。大丈夫だって」
一人で先に帰ろうとしたところを引き止められて、小さく苦笑する。
これでも結構アルコールには強いから、思考はまだしっかりしている。
いっそ酔いたかったくらいだけれど、少し身体が熱いくらいでほとんど酔えてはいなかった。
第一……。
「……紫都伽」
「わかってるよ。今まで撮られたことなんて一度もないの知ってるだろ?」
アイドルの紫都伽が電車でなんて帰ったら大変なことになる。
とはいえ、タクシーで「送る」なんて、私と二人でいるところを目撃されたら、それはまたそれで大問題だ。
顔を顰(ひそ)めたマネージャーからの声かけに、「気を付けるから」なんて肩を竦めているけれど、どう考えても私を送るなんて無理だろう。
しかも、その発言から、今までも撮られたら困るようなことをしてきたんだなぁ…、なんて思わず勘繰ってしまって悲しくなる。
確かに証拠写真とかは出回らなかったけど、何人かの有名女優さんとかタレントさんとか、紫都伽と噂になったことがあるのは知っている。
私も昔は芸能界にいたことがあるから、それがどれだけ信憑性がないものかはわかっているつもりだけど、その一方で、案外週刊誌の情報がバカにならないことも知っている。
そうして半ば強引に紫都伽に連れ出されて人気のない道路脇まで行くと、そこにはこちらに向かって手を振る車の運転手さんがいた。
「……誰?」
「高校時代からの友人」
周りに人目がないことを確認し、すばやく車に乗り込んだ。
「紫都伽にはたまにこうやってパシりにされてんの、オレ」
後部座席に座った私たちの方へと振り返り、少しだけ軟派そうな、眼鏡をかけたその友人は、くすりとからかうような目を向けてくる。
「紫都伽の友人の高峯 悠斗(たかみねはると)だ。よろしくな」
「…初めまして」
お互いの交遊関係はそれなりに知っていると思っていたけれど、彼のことは完全に初耳・初対面だ。
「これなら大丈夫だろ?」
週刊誌に撮られることもない、と笑う紫都伽は、元々こちらの彼と会う予定があったのか、それとも始めから私を送るつもりで友人を待機させてくれていたのか。
わざわざそんなことを聞くのも躊躇われて、私はそのまま動き出した車に身を委ねた。
「家まで送ればいいのか?」
「頼む。マジで感謝」
「後でいい酒奢れよー?」
「もちろん」
たまにパシりにされると言っていただけあって、目的地に向かう車の動きはスムーズだ。
慣れた軽口の遣り取りも、二人が気心知れた仲だということを伝えてくる。
けれど。
(家、って、紫都伽の家だよね…?)
他の場所へと向かうような指示を、紫都伽が出していた覚えはない。
「…なぁ、芹玲奈」
「なに?」
「ちょっと、家寄ってかない?」
「……なんで」
進路を確認するかのように窓の外をみつめていた私の様子に気づいたのか、紫都伽が窺うように声をかけてきた。
最初からそのつもりだったからなにも言わなかったのかと思えば納得もしたけれど、だからといって、なぜ私が紫都伽の家に行かなければならないのか。
「さっき聞いただろ?今撮ってるドラマ。なんか役作りが上手くいかなくて行き詰まってて。台本(ほん)読み、ちょっと付き合ってくんない?」
「…いや、でも……」
「こんなこと、芹玲奈にくらいしか頼めないから」
本気で困っているのか、真摯な瞳で「頼むよ」と手を合わせられてしまったら、私に断るなんて選択肢は残されていない。
「……わかった」
そうして渋々頷いた私の了解に、運転席から「良かったなー、紫都伽。マジで切羽詰まってたもんな」と明るい声が飛んできて、本当に紫都伽が困っていたんだと思い知らされる。
とはいえ、こんな時間に年頃の女子が独り暮らしの異性の家へとお邪魔するのはどうかとも思うのだけれど。
(…まぁ、紫都伽だしね……)
昔から、紫都伽は「くそ」がつくほど真面目な性格だ。
いくらアルコールが入っているからといって、間違ってもそんなことにはならないだろうと、どこか寂しいと思ってしまう自分がいることも感じながら、私は紫都伽の部屋へとお邪魔していた。
あらすじ
芹玲奈(せれな)が秘かに想っている幼馴染みは人気絶頂のアイドルグループに所属する紫都伽(しずか)。
アイドルがゆえにその願いは心の奥底にしまい込んでいた。
ある日、台詞読みに付き合ってほしいと紫都伽は芹玲奈を家に招くのだが…