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官能小説 【中編】初恋、初kiss、初×××。を君に捧ぐ。
この作品について
この作品は、小説サイト「ムーンライトノベルズ」と合同で開催した
「妄想小説コンテスト」の優秀賞作品です。
紫都伽の部屋
初めてココに来た時は、紫都伽のお母さんも一緒だった。
その次は、やっぱりメンバーと、私も知るタレントの女の子と数人で。
今回で三度目の訪問は、なんだか少しだけドキドキした。
だって。
『待てよ…!』
目の前にはお茶の入ったペットボトル。
ソファに隣同士で腰かけて、私は台本片手にドラマの台詞を口にする。
『いや…っ、離して……っ!』
『どうして』
『どうして、って……』
『離さない』
『っ!』
『…………』
『…………』
沈黙に、どうしたのかと顔を上げる。
とりあえず台詞は全部入っていると言っていたけれど、ど忘れしたのかと隣に座る紫都伽の顔を見て。
「……紫都伽。照れが顔に出てる」
ヒロインへの告白シーン。
見てわかるくらいには顔を赤くしている紫都伽へと、私は至極冷静な突っ込みを入れていた。
確かに、なかなか強引なこのシーンは、初めて恋愛モノを演じる紫都伽には少しキツいかもしれないけど。
「しかも、なんか棒読み」
台詞を止めてまでは指摘しなかったけれど、ずっと気になっていたことを口にする。
演技には割りと定評があるはずなのに、読み合わせを始めた時から、紫都伽の台詞回しにはずっと違和感があった。
「…いや、だって…。…こんなん無理だろ」
「プロでしょ?」
「それなら芹玲奈だって全然感情込もってないだろ?」
「私はプロじゃないもの」
なるべく感情が表に出ないように気を遣いながら、冷静に言葉を返す。
紫都伽相手に恋愛感情を込めた演技をするなんて無理に決まってる!
「子役してたろー?」
「「元」でしょ、「元」。大体子役に恋愛シーンなんて求められないし」
わざと冷たくあしらって、私の演技には有無を言わせないよう釘を刺す。
紫都伽じゃないけど、ちゃんと演じてくれなんて言われた日には、絶対に顔に出てしまう。
鈍い紫都伽が気づくかはわからないけど、それでも動揺は隠せないだろうから。
「…あーっ!もう駄目だ」
大声を上げてソファの背もたれへと身を沈ませた紫都伽に、一息ついてペットボトルを傾けながら、私も小さく息を吐く。
「……本当に苦手なんだね、ラブシーン」
「こんなん恥ずかしげもなくできるアイツらの方が可笑しいんだよっ」
アイツら、というのはメンバーたちのことだろう。
私の記憶が正しければ、'お色気担当'のメンバーは昔からそういう役どころが多かったけど、基本的に彼らはグループ全体として恋愛ドラマにはあまり縁がない。それでも、紫都伽を除くメンバーは、演(や)れと言われればきっちりその役をこなしてきたから、やっぱりそこは'プロ'なんだなと感心する。
「…よし。やり方を変えよう」
一通りこの場にいないメンバーに向かって愚痴を吐き、勢いをつけて起き上がった紫都伽が気合いを入れ直すのに、私は目を丸くする。
今度は一体なにに付き合わされるのか。
「変える、って?」
「ただ隣に座って台本(ほん)読みするんじゃなくて、ちゃんとしよう」
「……は?」
「逃げてみて。追いかけるから」
真剣な目を向けられて、私は一瞬動揺する。
「……そこまでする?」
「こんなところで何度もリテイクされる方が恥ずかしいだろっ」
ほとんどNGを出さないことが売りの一つだというのに、恋愛シーンこんなところで撮り直しをくらうのは二重の意味で嫌だと訴えかけてくる紫都伽に、ついつい気圧されてしまう。
…まぁ、確かに、ただでさえ恥ずかしいシーンを何度も演(や)り直しさせられるのは、精神的苦痛がすごいとは思うけど。
そうして。
『待てよ…!』
トップアイドルだけあって、一人暮らしにしてはかなり広い部屋の中で、逃げる真似をした私を紫都伽が追いかけてくる。
『いや…っ、離して……っ!』
紫都伽の勢いに負けて渋々付き合っているだけなのに、「嫌」という台詞に感情が籠ってしまう。
……だって、本当に離して欲しい。
『どうして』
私の手首を掴んだ紫都伽が、真っ直ぐ私の顔を覗き込んでくる。
お願いだから、そんな真剣な瞳でみつめないで欲しい。
勘違い、してしまいそうになる。
動揺して、次の台詞を告げるべき唇が震えてしまう。
『どうして、って……』
『離さない』
『っ!』
顔に、熱がこもる。
真摯な愛が覗く強い台詞回し。
本気で自分が言われているみたいな紫都伽の演技に、なんだできるじゃない、上手いよ、なんて思ってしまう。
だって。本当に。
錯覚、しそうになるから。
ぐっ、と力の籠った手。
そのまま腕を引き寄せて、告白と同時に少しだけ強引にキス、がシナリオだけど。
さすがに「カット!」と、終わりにするべきかな、なんて思って。
……視線が、絡み合った。
ーーそのまま、時が止まる。
演技?それとも…
「しず……?っ!?」
そのまま、背後の壁に押し付けられた。
その勢いに、僅かに顔が歪む。
……台本!
『…好きだ』
「…………!!」
私をみつめてくる真剣な瞳。
本当に自分に向かって言われているんじゃないかと思って、信じられないくらい心臓が跳ね上がった。
……違う。
これは、私に、じゃない。
'台本'だから。
よくできました、って笑って離れるべきなのに。
なんだか泣きそうになってしまう。
いつか、誰かに、紫都伽もこんな風に愛を告げたりするんだろうか。
ううん。もしかしたら、これまでにだって……。
「しず……、ん……?」
影が差し、その理由を理解するより前に、唇になにかが触れる柔らかな感触がした。
目の前には、目を閉じた紫都伽の綺麗な顔。

(…え……)
理解、できない。
(…な、に……?)
……もしかして、私、今、紫都伽にキスされてる……?
「しず……?」
ゆっくりと離れていったように感じる紫都伽と目が合った。
だけど。
「…ん……っ」
紫都伽が顔の角度を変えたのがわかって、気づけば、もう一度。
「ん……」
「…………芹玲奈」
「……な、んで……」
今度こそ離れた紫都伽に、頭の中がぐるぐる回る。
……なんで。
どうして。
……そうだよ!台本!!
台本だから、勢いで!?
「……ごめん」
……なんで謝るの?
……気持ちが、ないから?
「……好きなヤツ、いるんだっけ」
ポツリ、と洩らされたその言葉にまた固まった。
「好きな…、人……?」
……すきな、ひと。
……うん。好きな人、だったら、いる。
小さい頃から、ずっと、好きで。
もう、諦めようと思っていた人。
「…オレと、婚約してるんじゃなかったの?」
……紫都伽は、なんの話をしているの?
こん、やく……?
それは、あの、幼い頃の口約束の……?
紫都伽のその、真っ直ぐみつめてくる瞳の中に、何処か寂しそうな色が見て取れるのは、私の願望だろうか。
「……今度のドラマ。キスシーンがあるって聞いて、子供みたいに、好きでもない相手とそんなことするなんて、嫌だと思ったんだ」
私を壁へと縫い止めたまま、紫都伽は僅かに目を逸らす。
「でも…。ちょうどいいかも、とも思った。もう一度、ちゃんと「好きな子」とキスしてから演(や)ろう、って」
……すきな、こ……?
「…他に、好きなヤツができたの?」
再度私の方を向いた紫都伽が、苦笑いを浮かべて聞いてくる。
「オレは昔から芹玲奈だけだったのに」
………………え………?
……私は、今、なにを聞いたの……?
「他の男のところに行くの?」
口元に寂しげな笑みを浮かべながらも、紫都伽の瞳は真剣だ。
「……他の、男……?」
……紫都伽、以外の?
でも、それは。
だって。もう、いい加減諦めなくちゃ、って思ってた。
紫都伽に、そんな素振りは全くなくて。
可愛い女優さんとかタレントさんとかに囲まれて、付き合ってるんじゃないか、なんていう噂だってあって。
もうこれ以上想っていてもダメなんだな、って。
そろそろ初恋からは卒業しなくちゃ、って……。
「……待っ、て……?……それって、どういう……?」
私は、都合のいい夢を見ているんだろうか?
それとも、床に落ちた台本の続きは、こんな展開だった?
「……ずっと、好きだった」
意味がわからず頭の中がぐるぐるとまわる私の耳に聞こえた確かな声。
「芹玲奈のことが好きなんだ」
紫都伽の綺麗な瞳にみつめられて、指先一つ動かせない。
「誰にも、渡したくない」
……う、そ…………。
……空耳?
私の願望が生み出した幻じゃないの?
そう疑う心に反して、一気に瞳へと涙が溜まった。
「…芹玲奈は?もう、子供の頃の約束なんて忘れちゃった?」
優しく髪を撫でて頬に触れてくる紫都伽に、耐え切れない涙が零れ落ちた。
幼い頃に交わした結婚の約束。
忘れたことなんて一度もない。
今までずっと、それだけに縋って紫都伽を想い続けてた。
でも。
「……紫都伽の方こそ……」
一度溢れた涙は止まらなくて。
次から次へと溢れる涙を、紫都伽がそっと拭ってくれた。
「……あんなの、おままごとだ、って思ってるんだと……」
「……それって」
私にとっては忘れられない思い出でも、きっと、紫都伽にとっては違うんだろうな、って。
ただの過去でしかないんだろうな、って。そう思ってた。
「私だって……」
「……」
「……」
「……芹玲奈。ちゃんと言って。……オレの都合のいい勘違いだったら嫌だ」
そのまま黙り込んでしまった私に、紫都伽の真剣な声色。
だって、恐いの。
口にしてしまったら解けてしまう魔法みたいで。
こんな素敵な夢なら、もう、目を覚ましたくないの。
だけど。
「……芹玲奈」
真っ直ぐ紫都伽に射抜かれて、震える唇が言葉を紡いだ。
「……私だって、ずっと紫都伽のことが好きだった……」
あらすじ
芹玲奈(せれな)が秘かに想っているのは、幼馴染みで人気絶頂のアイドルグループに所属する紫都伽(しずか)。
或る日、台詞読みに付き合ってほしいと紫都伽の家に招き入れられた芹玲奈は、練習で愛を囁く紫都伽の態度を本物のように感じてしまい…?