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官能小説 許嫁に恋しています。


作品について

この作品は、小説サイト「ムーンライトノベルズ」と合同で開催した、 「妄想小説コンテスト」の優秀賞作品です。

甘い囁き

ソファの画像

「…っ…」


ソファーに座るなり迫ってくる体を押しやる事が出来ない。キスをするより先に服の中へと入り込んでくる大きな手は、下着の上から胸をまさぐっている。


仕事から帰ってくるなり、引き摺られる様にしてソファーの所に連れて来られてしまった。このままでは直ぐにでも最後まで貪られてしまいそうな気がしている。


(せめて、シャワー浴びたい…)


「…待って…っ…」


既にキャミソールの下のブラジャーはずらされて、出てしまっている乳首がキャミソールの薄い布越しに弄られていた。それが堪らなく感じる愛撫の一つなのだと良く知っている大きな手を止めるべく腕を両手で掴む。愛撫を止めようと動いた事で、それまで見下ろしてくるだけだった顔が近付いてきた。


「昼からずっと待ってる。…これ以上待てない」


迫ってくる顔は何度見ても見慣れない程に整っている。ゾクリと走る感覚は甘い戦慄だった。現実味が薄く感じられる程に美しい顔と筋肉質で大きな体。そんな『美しさ』だけで作られた様な男こそ、私の部屋に住むもう一人の住人だった。


「でも、シャワー浴びたいから…」


(近い…)


キスをする様な距離のまま見詰められている。胸は高鳴りを繰り返して声まで震えさせていた。それでも何とか訴えると美しくて鋭い瞳は細められる。


「後でいいだろ?」


甘く囁かれる言葉は強引で、それに私は逆らえなくなってしまう。


「…ッ、…奏…」


近付いた形の良い唇から舌が覗いて、唇を撫でられただけで名前を呼んでしまっていた。


「…そうだ。もっと俺の名を呼べよ…ミカ」


甘くて低い声が耳元で囁かれる。熱が込められた様な声にも体は反応して揺れてしまいそうだった。


男の名前は奏(かなで)。


普通の会社で事務をしている私とは違い、奏は有名な雑誌とモデルの契約をしている。


そんな有名なモデルである男と、こんな風に暮らしているのには理由があった。


奏と私は親同士が決めた許嫁なのだ。

意識する身体

一昨年、私は数年ぶりに父方の田舎へと帰省した。家族全員で帰省した祖父の家。そこで私は自分に許嫁がいる事を知った。


そこからは、坂道を転がり落ちる様な勢いで私の周りを取り巻く状況は変化している。一番大きな変化は、奏が私の住むマンションの一室に転がり込んできた事だった。


「…ッ…ンッ…」


ゆっくりとしたキスは深くて甘い。それだけで殺しきれない声が出てしまう。ソファーに沈み込む様にして背中を着いてしまうと、そのまま大きな体も伸し掛かってきた。


「…ンアッ!…やっ、それ…ダメ…ッ…」


キスをしている途中で声を上げてしまう。服の中に入り込んでいた手が再び胸を弄り始めていた。


「『ダメ』?…『イイ』だろ?…ほら、もう硬くなってきた。…感じてる」


「…ン…ッ…」


感じるまいとしても反応してしまう。奏は私の体をよく知っている。何処をどう触れば感じるのか…教え込んだのが奏本人だからだ。


「疼くだろ?腰が揺れてる」


「触ら、ないで…」


言われている通りに体をくねらせてしまっていては、拒む言葉も意味を成さない。それでも言わずにはいられない私を見詰めて、奏は薄く笑みを浮かべた。


「本当に、触らない方がいいか?」


胸を弄っていた手が、ゆっくりと離れていく。


「…ン…ッ…」


指先だけが微かに触れただけで声が漏れてしまっていた。


(…ダメ、なのに…)


服の中に入っていた手が無くなるとホッとする。それだけで良い筈なのに、頭の奥の方では真逆な事を考える自分がいる気がしていた。


「ほら、シャワー。行かないの?」


直ぐに立ち上がろうとしない様子を、奏は薄く笑みを浮かべながら見下ろしてきている。


「…入る」


私の様子を観察している事を隠していない様子は苛立たしくも思えてしまう。しかし、顔を見る勇気までは出なかった。


(…ズルい)


何か言い返そうと思って顔を向けたら、目が合ってしまう。目が合ったら、例え怒鳴り声を上げたとしてもバレてしまうに違いない。理由は、とても単純で簡単な事だ。


私は奏に恋をしている。


(今更『恋』とか、遅過ぎ…)


「…」


未だに迫る体を押し退ける様にして立ち上がるが、掛ける言葉は見付けられなかった。無言になった事で何となくでもない気まずさを感じてしまうがどうする事も出来ない。しかし、その気まずさは直ぐに断ち切られた。


「…怒った?」


離れた距離は掴まれた手首によってゼロになる。ゆっくりと立ち上がった奏は静かに訊いてきた。それに首を横に振るだけの反応しかしないでいるのは、直ぐに抱き締められたからだと思う。柔らかく抱き締められると甘い香りを強く感じた。私よりもずっと色っぽい香りを纏った奏に、抱き締められるだけで溶かされていく様な気がしている。


「シャワー、一緒に浴びたい。いい?」


「うん…」


柔らかくて甘い囁きで誘われると、私は簡単に頷いていた。

鋭くなる感覚

「…っ、やっ…それ、ダメッ…」


一緒に入ればどうなるかなんて、考えるまでもない。既に抱き合う様に密着した体は力が抜けてしまっている。されるがままといった感じの体は、感じ易い場所ばかり弄られて内側からうねりを生んでいた。


「洗ったばかりなのに溢れて、ぬるぬるだ…」


「っ…脚、やだ…」


脚を閉じさせてもらえない。浴室の壁に手を着かされて、背後から抱き締められている。素手で体を撫でる様にして洗われても解放してはもらえなかった。長い指をした大きな手は胸を弄るだけではなく、当たり前の様に下股の方へも伸びてくる。それを拒もうと脚を閉じていたが、遂に閉じた隙間に強引に膝が入り込んできた。


「何で?恥ずかしい?」


入り込ませた長い脚を持ち上げられると簡単に両足が床から離れる。しっかりと支えられているので崩れる事はないが、今度は背後に密着している奏の体を意識してしまっていた。


「何度もしてるのに、慣れないな」


「…ンッ…」


楽しそうな声が聞こえた直後に肩口に唇が触れる。小さく音を立てて落とされたキスに声が出てしまうと、大きな手がおもむろに太腿を撫でてきた。


「もう挿れたい。…いい?」


太腿を撫で上げて辿り着いた場所で、指は遊ぶ様に敏感な部分を撫でてくる。指の腹が柔らかく行ったり来たりを繰り返すと、私の頭というか首はガクガクと動いて頷いていた。


「こっち、向いて」


壁に頬を擦り付けそうな勢いで固まっていたが、促されて体の向きを変える。向き合うなり腰の辺りを掴まれて引き寄せられると、私の体はあっという間に抱き上げられた。


「…んぁ、ゃ…」


至近距離で目が合う。普段は身長差が逃げ場の様になっているが、こうして抱上げられると目線が同じになっていた。それに照れを感じる前に膝裏に手が掛けられて硬いものが押し当てられる。壁に背中を預ける様にして抱き合うと、ただそれだけで限界を迎えてしまいそうだった。


「凄い動いてる。…イキそう?」


「…ッ…ン…ン…」


(気持ちいい…)


ゆっくりと揺すられる度に鼻に掛かった様な声が出てしまう。返事をしなくても快感を伝えてしまっているのか、奏は小さく笑った。


「…可愛くて、めちゃくちゃにしたくなる」


抱き付いていた両腕を自らの首に回させると、奏は更に突き上げてくる。繋がった部分は自分の滑りで簡単に奥まで奏を許していた。


「アアッ!…ンッ!…ッ…」


大きな波に飲まれる様にして感覚が鋭くなっていく。一際大きく声を上げた直後、私はきつく抱き締められた。

強い快感が欲しくて

帰宅直後に抱き合っても、奏はまだ足りないと言ってベッドに私を引き摺る。濡れた髪も殆ど乾かせずに上がったベッドで、奏は組み敷いた私を見下ろして笑みを浮かべた。


「明日は休みだろ?俺もオフだから遠慮はしない」


「ぇ?」


何を言われているのか理解が遅れてしまうが、理解する頃には手遅れになる。


「俺をこんなにしたお前には責任を取ってもらわないとな」


「な、何で!?」


あまりにも突拍子の無い事を言われて声が裏返るが、そんな反応に美しい眉を寄せて奏は顔を近付けてきた。


「親が勝手に決めた許嫁なんて時代遅れだ。…そう思って断る気でいた俺を、結婚する気にさせたんだ。責任を取ってしっかり面倒見てくれるだろう?沢山種付けもしないとな」


「!…ま、待って…」


『覚悟しろ』とまで続けるなり覆い被される。既にお互い裸では簡単に絡み合えてしまっていた。


「ミカ…、ほら、握ってみて」


嫌だと拒んでも力では敵わない。指が回りきらない太さや硬さに動揺すると、耳元では溜め息が聞こえた。


「扱いて…」


「…で、出来ないよ…」


急に言われても無理だと言うが、握った手の上から奏の手が重ねられてしまう。そのまま強く握られるなり動かされると、恥ずかしさに目を閉じていた。


「お前にされてると思うと、凄く…イイ…から…」


「!…ん…っ!…ぁ…」


急に走る刺激に目を見開く。視界にはもう片方の手で私の胸を弄る奏の姿が入ってきて、目まで合ってしまっていた。


「エロい顔してる」


そう言って唇を舐める仕草に煽られていく。もっと強い快感が欲しくなって口元を見ていると、握らされていた手を解放された。しかし、それが更に自分を追い詰めるものだと気付いた時には遅いと知る。ゆっくりと体を起こした奏は、私の脚を開かせるなり晒した場所に顔を寄せてきた。


「あッ…ゃ…舐め、ないで…」


ゆっくりと温かくて柔らかい舌が這わされている。感じている事を知られてしまう恥ずかしさに手が伸びるが、髪に触れると逆に手が掴まれた。


「舐められるの好きだろ?…どんどん濡れてきてる。舐めたい…」


少し顔を上げて言うと再び顔は伏せられてしまう。美しい顔が自分の下半身に埋められている様子を見ていられずに私は顔を上げた。


「…お前に、撫でられるの好きだ」


じっとしていられずに艶やかな髪に触れていると、小さく笑いながら声が聞こえる。そして、直ぐに再び滑る舌が押し付けられたのは、一番弱くて小さな膨らみだった。


「あ…ッ…ン…ッ」


身を捩るばかりだった体が、ガクガクと大きく揺れてしまう。気持ち良くて堪らないと教える様に反応してしまうと、伏せる様にうずくまっていた奏が起き上がった。


「まだイクなよ?俺も気持ち良くしてくれないと」


そう言って硬いままのものを押し当ててくると、一気に貫かれる。


「!」


急に押し寄せる鋭い感覚に声も出ない。ぴったりと体を寄せて腰を揺すられると、私は堪らずに奏の背中に爪を立てていた。


「…ッ、いいよ。…跡、もっと付けて…」


「も、むり…っ…」


我慢出来ずに体が動く。無意識に逃げようとする体を強く抱き締めて奏は私の奥に精を放った。

ワガママな許嫁

真っ暗だった世界に、『音』が繰り返し聞こえ続けている。その音が何なのか気になりはするが、目を開けてまで確かめようとは思わなかった。


「…ああ。寝てた。…ん?…ああ、それ…大丈夫だから。…そう。伝えといて」


(電話か…)


抱き合う様にして寝ていた奏の声がする。聞こえていたのは奏のスマホの着信音だった事に何故か安堵した。そのまま再び寝てしまいそうになっていると、通話を終えた奏が私を抱き寄せてくる。大人しくされるがままになっていると、奏は小さく笑った。


「…どうしたの?」


気になって訊いてしまう。眠気は感じているので顔も上げずに迫る胸板に顔を埋めたままだった。私が起きたと知って奏は髪を撫でてくる。そして、耳に髪を掛けて晒させると唇を寄せてきた。


「親。マネージャーをお前にすると伝えた」


「ぇ?…ぇ、待って…。ま、マネージャーって?」


驚き過ぎて眠気が一瞬で飛んでいく。思わず顔まで向けてしまうと、目の前には全く悪びれる様子もなく笑みを浮かべる美貌があった。


「側にいてくれるだろ?既にお前の両親からはOKもらってるから」


「いや、待って。仕事とか、有るし…」


「ミカは俺のだろ?」


何でそんなに急にとは言わせてもらえなくなっていく。


(今からこんなワガママ許して…大丈夫かな…)


鋭い瞳が印象的なモデルの正体が、こんなにも甘くて強引だなんてと思う。


しかし、私は頷いてしまっていた。


それは、私が奏に恋をしているからだろう。


END

あらすじ

男の名前は奏(かなで)。
普通の会社で事務をしている私とは違い、奏は有名な雑誌とモデルの契約をしている。
そんな有名なモデルである男と、こんな風に暮らしているのには理由があった。
奏と私は親同士が決めた許嫁なのだ…

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