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官能小説 【前編】妖の番
この作品について
この作品は、小説サイト「ムーンライトノベルズ」と合同で開催した
「妄想小説コンテスト」の優秀賞作品です。
謎のモテ期!?
最近やたらと男に声をかけられる。私は声をかけてきた男の背中が遠ざかっていくのを見ながら、隣を歩く真子に話しかけた。
「人生初のモテ期とか!?」
「いや、違うでしょ。どう考えても」
私は手の中にある折り畳まれた紙を開いて内容を確かめると、真子に見せる。
「いや、これはどう考えてもラブレターだよね?」
「そうね。幼児からだけどね」
現実を突きつけられて、すきですと書かれた紙をそっと元通りに畳みなおして鞄にしまった。思わず受け取ってしまったが、幼稚部の制服を着た男の子に渡されたラブレターを本気にするほどお花畑な頭をしているわけではない。
「分かってるよー。でも、これで今月になってラブレターをもらうの三人目なんだよ?」
一人目は同じ通学路を使う初等部の子。二人目はバイト先の学園内にある売店によく来る初等部の子。そして今日の幼児。
二人目までは見覚えがあったが、今日の子は見覚えすらない。全員私と同じ学校の制服を着ていたので構内で出会っている可能性はあるけれど、幼稚部・初等部と私の通う大学は同じ敷地内であってもかなり離れている。
一瞬見かけたような関係で、有名人でもない私を好きになることなんてあるのだろうか。
「どう考えてもおかしい。大学生になってもこなかったモテ期が二十歳になってついに来たかと思ったのに」
「モテ期ではないって」
「だよねえ。なんか私目立ってるのかな? メイクが変とか?」
問いかけるとため息をついて真子は鞄の中から手鏡を出してくれた。
遠慮なく受け取ってまじまじと見るが、美人に生まれ変わっていたなんてこともなく、どっからどう見てもいつもの顔だ。
肩下の黒髪に切れ長の目、ちょこんとした唇は可もなく不可もなく平凡などこにでもいるような顔である。メイクだって朝してきたばかりで崩れていない。服装も奇抜なものではなく、スカートとブラウスといういわゆる量産型女子であるし目立つ要素は何もない。
「ありがと、やっぱ何も変わってないわ」
「そう、良かったわね」
「どうせなら真子みたいに目が覚めるような美人になってて欲しかったけど」
「何それ」
鏡を受け取りながら呆れたように真子はいうが、彼女のくっきりとした二重で真ん丸の目と通った鼻筋、ぷっくりとした唇は私の理想の顔である。
「なんかこう、人間らしくないような美しさ……?」
「どういうことよ、それ」
吹き出すように笑い始めた真子がふと横を見つめた。その視線を追って目を向けるとその先には真子とそっくりの顔をした、真子のお兄さんである健斗さんが笑顔で手を振っていた。
「健斗さん。こんにちは」
ぺこりと会釈をする。二つ年上の健斗さんも真子と同じく幼稚部からの知り合いである。
「こんにちは、詩織ちゃん。これから講義?」
「はい、そうです」
「頑張ってね」
「ありがとうございます、健斗さんも講義ですか?」
「うん、そう。あ、ちょっと動かないで」
「はい?」

健斗さんは穏やかに笑いながら私の肩に手を伸ばしてきた。
「埃が付いてたみたいだから……うん。とれた」
「え、やだ! ……ありがとうございます」
さっき鏡で見たときは気が付かなかったのに。恥ずかしくて顔が赤くなる。
「いえいえ。……そういえば真子」
「はいはい分かってる」
健斗さんの呼びかけに明らかに面倒そうな返事をする真子。時々二人だけが通じる言葉を交わすことがある。以前聞いてみたがこっちの話、と会話を打ち切られてしまった。兄妹の間に入り込めないことは分かっているけれど、幼稚部から高等部までは共に行動をしていたので何となく寂しい。
そんなことを思いながら健斗さんに手を振って、真子と教室へ向かった。
バイト帰りに
哲学と日本現代史という眠くなるような講義を受け終えて、私は真子と食堂で昼食を食べていた。
「今日はこの後バイト?」
「うん、今日はラストまでだからちょっと長めかな」
返答してから日替わり定食の唐揚げを口に放り込む。この大学の学食は評判が良いが、この唐揚げもしっかりと下味が付いていて美味しい。そう思いながら咀嚼していたが、真子の言葉に慌てて飲み込んだ。
「そしたら学生ホールで待ってる」
「え! なんで? もう帰るんじゃないの?」
真子も午後の講義はない筈だ。殆ど同じ講義を受けているのでいつもは一緒に帰っているが、今日はバイトがあるのでかなり待たせることになってしまう。
「私もバイトだから」
「そうなの?」
「うん、だからどうせ家に帰らないの」
「分かった。でも、早かったら帰っちゃっていいからね? その時は連絡ちょうだい」
真子は私の親よりもずっと過保護だ。家が近いこともあって昔は自然と真子と健斗さんの三人で通学していた。
だが、高等部になってからはお互いに受講する科目や部活が変わり、一人で帰ることも度々あった。その時に誰かに付けられている気がすると真子に零したのが悪かったのだろうか。感じたその気配は今思えば気のせいだったような気もするが、とにかくその時から真子は出来るだけ私と一緒にいるようにしてくれている節がある。
いつも感謝しているが大学から家まではバスでニ十分、更に歩いて十分で着く距離だ。あまりにも迷惑をかけ過ぎているのではないかと心配にもなる。
「どうかした?」
真子の方を見つめていたのがばれたのか不思議そうに問われ、私は何でもないと首を振ると再び唐揚げを口に運んだ。
外にカラフルな色が増えてきたのを横目に捉えながら品出しをしていると、店長に話しかけられた。
「雨降ってきちゃったね」
「そうですね」
「今日はもう上がっちゃっていいよ」
「本当ですか?」
「うん。在庫確認とかしてもらっても良いけど、今日はそんなに人も来ないだろうから」
「ありがとうございます!」
ちらちらとお店の時計を気にしていることがばれたのか、店長のご厚意に甘えて早上がりさせてもらうことにした。真子のいるカフェで課題でもやりながらバイトが終わるのを待とうと思い足早に構内を出る。だが、カフェで出鼻をくじかれてしまった。
「今日は東さんはお休みですよ?」
「え? 本当ですか?」
「ええ、今日はシフト入ってないので」
「……そうなんですね、ありがとうございます」
真子の友人として通ううちに顔馴染みになった店長に会釈をして、申し訳程度のシュークリームを買うと店を出る。
学生ホールに足を向けるも当然のように真子の姿はなく、仕方なく早上がりをしたので帰る旨のメッセージを送って家へと向かう。まだ本来の時間より三時間ほど早いので気が付いてくれるだろう。
「私のため……かな」
真子がスケジュールを間違えるなんて想像が付かない。私に気を使わせないためにバイトがあると嘘をついたのかもしれない。後で聞いてみようと思いながら、目的地に到着したバスから降りると雨足は強まっていた。肌を撫でる空気が生暖かく湿っていて、気持ち悪い。
どことなく憂鬱な気分になりながら住宅街を通り、公園を通り抜けようとしたところで後ろからばしゃばしゃと水溜りを踏み鳴らすような音が聞こえた。
わざとらしく出された音に振り向いてみれば、やけに整った顔の男が傘も差さずに歩いていた。一瞬合った目は光の関係か黄色く見え、その整い過ぎた顔にどこか寒気を感じ顔を逸らす。足を早めようとしたところで腕を掴まれた。
「ひっ!?」
ぐっと引っ張られた方向を見てみればいつの間に近づいたのか、左手の肘下あたりを先程の男が掴んでいた。
「顔を見るなり逃げ出すなよ」
「離してください!」
恐怖を感じながら手を振るが解くことも出来ず、ますます強く握られて痛みに顔を歪める。
「離して!」
右手に持った傘を振り上げる。
「なんでそんな攻撃的なんだ?」
渾身の力で振り下ろした傘は簡単に相手に払われ、しかもその衝撃で私の手をすり抜けてあっけなく遠くへ飛んでいってしまった。公園内を見回しても雨であるからか他に人はおらず、助けを求めようもない。
「っいや……」
「お前、まだ一人だろ?」
「な、何が?」
「だから! あー…まあいいや」
どう逃げようか震えそうになる身体を抑えながら思案していると耳元で囁かれた。
「こんなんで処女じゃないわけないし?」
「なっ……」
何を言っているのだこの男は。男は不穏な笑みを浮かべると、何をしたいのか瞼を閉じながら私の首周りに顔を近づけてきた。臭いを嗅ぐような仕草をしている男の視線がこちらに向いていないのを確認しながら、私は左腕にかけていた鞄から水筒を取り出すと男の股間目掛けてそれを振り上げる。
「あっぶね」
当たると思ったのだが、男は私の攻撃より素早く腕から手を放すと水筒が届かないところまで下がっていた。
逃げるしかない。失敗したと分かった瞬間、水筒と荷物を投げつけると脇目もふらず公園の出口まで走り出す。
「弱っちいくせして生意気」
「いっ……」
けれど、何歩と足を踏め出せないうちに髪の毛を掴まれた。
「どうやってそんなんで生きてきたわけ? こんなに臭い撒き散らしてるくせに」
髪の毛を後ろに強く引っ張られて強引に男の顔を見上げさせられる。その口の中に先の分かれた長い舌と鋭い牙があるのが見えて思わずくぐもった悲鳴をあげた。
「巣穴に行くぞ」
腰を掴まれると、肩にお腹がくるように担ぎ上げられる。急に身体が宙に浮いた恐怖とお腹に体重がかかる苦しさにばたばたと手足を動かす。
「いやっ、嫌だ!! 誰かっ、んぐっ!!」
うるせえと手で口を塞がれてしまえばただ唸ることしかできずに、私はどんどんと運ばれていってしまう。
殺されるのかな。そんな最悪な想像をする。男の言っていることは何一つとして理解できなかったが、連れ去られて何か酷いことをされるということだけは理解できた。頭の中がこれからの恐怖と後悔で一杯になる。
せめてもの抵抗に手足を動かして攻撃を与え続けていると突然、男の身体が傾いた。スローモーションのように地面から空へと景色が移り変わり私も後ろに落ちていると気づいた次の瞬間には、誰かに抱きしめられていた。
「ねえ、その子は僕の大事な人なんだけど」
「お、お前……神社の」
「僕が殺す前に消えて」
尻餅をついていた男は何が起きたのかきょとんとした後に顔を恐怖に歪めさせると、さっきまでの威勢はどこにいったのか脚を震わせながら背を向けて逃げ出した。呆然としていると助けてくれた彼が私を立ち上がらせてくれる。
「詩織ちゃん、大丈夫? ……大丈夫じゃないね、あー殺しちゃえば良かったかな?」
失敗した、と舌打ちをしながら安心して零れてしまった私の頬を伝う水滴をその手で拭いとる。
「……健斗さん……?」
⇒【NEXT】急に切り出された言葉に戸惑う。(【中編】妖の番)
あらすじ
詩織は親友の兄、健斗さんにひそかに想いをを寄せている。
ある日のバイトの帰り道、謎の男たちに襲われそうになり大ピンチ…!